<報告>11月8日まなびカフェ「フツーってなあに?~マイノリティーの視点から~」

11月8日(日曜日)14:00~16:00 まなびカフェ
「フツー」ってなぁに?~マイノリティの視点から~
ゲスト:なかだこうじえんりけさん(暮らしづくりネットワーク北芝職員・ポリグロットうちなーんちゅクィアフェミニスト)

10月半ばのある金曜日、石橋のインド料理屋で夕食後のチャイをすすっていると、
背後から軽やかな調子でベジタリアンカレーを注文する男性の声が聞こえてきた。

なんだか聞き覚えのある声だと思って振り返ると、そこには案の定、モジャモジャの
顎髭を蓄え、独特のシャツを身にまとったなかだこうじえんりけくんが座っていた。
同じ大学の大学院に通っていた彼とわたしは5年来の友人だ。

いつもの通りあっちこっちに飛び回る彼の話に耳を傾けているうちに、
翌月彼がらいとぴあで主催
するという「まなびカフェ」の話題になった。
聞けば、まだ日本では聞き慣れないマイクロアグレッションをテーマに
ワークショップをするという。

「クィア・フェミニスト・ポリグロット・うちなーんちゅ」を自称するなかだくんが、
マイノリティの視点から「フツー」を問い直す。
これは面白いに違いないと思い、わたしは二つ返事で参加の約束をした。

このイベントは、「他者を理解する」前に、
自分自身のことをどこまで知っているのかを問い直すことから始まった。
イベント前半は、講師のなかだくんが用意したワークシートを用いて、
自身の過去・現在・未来のアイデンティティーを、
①「知識」
②「口(ぐち:琉球語で「言語」を表す)」
③「地位」
④「血」
⑤「地」
⑥「A expressão da identidade[ア・エスプレッサオン・ダ・イデンチダーヂ]
  (アイデンティティー表現)」
という6つの側面(講師のなかだくんは、これを6つの「ち」と称している)から分析することに
たっぷり時間が割かれた。

改めて自分の性質を具体的に書き出してみると、普段なんとなく
分かっているつもりでいて実はぼんやりしていた自身のアイデンティティーが、
明確な輪郭を持ってくるようで気持ちが良い。
やり直すほどに自分のパーソナリティについて新たな発見が得られ
心が整理されそうなので、今後も、自分がやりたいことが分からなくなってもやもやしたときには
ぜひ試してみようと思う。

次になかだくんは、今回のイベントのメインテーマであるマイクロアグレッションについて解説した
アニメーション動画を見せてくれた。「小さな攻撃」を意味するこの言葉は、
動画内では、蚊に刺されることに喩えられている。

例えば、日本語を話す外国人を「日本語がお上手ですね!」と褒める、
あるいは、異性愛者が同性愛者に思わず「ゲイだなんて知らなかった!」と言ってしまう。
わたしたちはしばしば、「フツー」からはみ出たものに対して、こうした発言を悪気なくしてしまう。
けれども言われた当人は、相手の心の奥に隠された無自覚の差別意識を感じ取って、
実は小さなダメージを受けている。

この動画を見た上で、イベント前半で行ったワークシートに立ち返ると、自分たちも多かれ少なかれ
こうした攻撃に出くわしていることに気づく。
例えば、31歳になって大学の博士課程で文学を研究しながら
非正規の事務の仕事をしているわたしは、
「博士課程にまで行ったのに博論を出さないなんて
(あるいは、ちゃんとした仕事につかないなんて)もったいない」
「彼氏いないの? モテそうなのに」
「文学研究なんて何の役に立つの?」
なんて言葉を日々投げかけられてきた。

なかだくんはイベント中に、以前ワークショップに参加した方が、
「「ち」の数だけ差別があるんやね!」という発言をされたという話を
語ってくれたが、なるほど、マイノリティであればあるほど、
マイクロアグレッションに遭遇する頻度は高くなるだろう。


以上のことを踏まえて、イベントの最後には、参加者全員で自分がこれまで遭遇した
マイクロアグレッションの経験について共有する場が持たれた。
興味深かったのは、多くの参加者が、自分がマイクロアグレッションを受けた経験だけでなく、
自分が他者に対して蚊になってしまった経験についても語っていたことだ。

他人の痛みや苦しみを100%理解することはもちろん不可能だ。
けれども、自分が痛い思いをした経験から類推して、
相手が感じている苦しみを理解しようと努めることはできるし、
そうした姿勢は良好な人間関係を築く上で欠かせない。

だから、他者を大切にするためには、まずは自分自身を見つめ直す必要がある。
今回のまなびカフェは、冒頭で参加者一人一人に「フツー」からはみ出して嫌な思いをした経験を
思い出させることで、マイクロアグレッションを受け続けるマイノリティの辛さに自然と共感が
抱けるような工夫がなされていた。
非常にうまく構成された良いイベントだったと思う。

個人的に印象深かったのは、参加者の一人が、世間の「フツー」に囚われて、
「自分が自分の血を吸う蚊になってしまっていた」
と語っていたことだ。
わたしにも思い当たる節がたくさんある。
自分の「フツー」が世間の「フツー」に侵食されるとき、
わたしたちは必要以上に自分を卑下したり自信を失ったりしてしまう。

けれども、このイベントの冒頭で参加者全員が確認したように、
わたしたちは誰しも「フツー」の枠からはみ出る部分を少なからず持っている。
「フツー」とは、実際は存在しない、非常に曖昧な枠組みなのだ。
そんな「フツー」にがんじがらめになるよりも、自分や自分の周りにいる人たちが持つ、
「フツー」からはみ出た部分こそを大切に思える人でありたい。

イベントを終えて夕暮れ時の171号線を自転車で走りながら、わたしはひとりそんなことを思っていた。

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文・まなびカフェブロガー ちぇじゅこさん

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◆11月29日(日曜日)13:00~15:00 トーク×ワークショップ
「私たちの性と生、知らないのは誰のせい?vol.1  〜人権を中心とした性教育を〜」
 大事なことなのに学校では充分に教わらない性やカラダのはなし。
子ども・若者だけでなく大人でも知りたいこと・もやもやしていることに対する情報に
アクセスできない状況があります。
今回は人権教育としての性教育に取組んでいるセクソロジー・プロジェクトから
金ハリムさんをお呼びしてp4c(ピーフォーシー:子どものための哲学)という
対話型哲学の手法を使った性教育ワークショップを行います。
【ゲスト】金ハリムさん(セクソロジープロジェクト)
【定員】12名
【対象】性について疑問をもつ人、性についてどう教えるか悩んでいる人

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