2019年10月31日(木曜日)まなびカフェ
『これからの「家族」「結婚」を考える』
ゲスト:鈴木 興治さん(鈴木総合法律事務所 弁護士)
「家族」とは、法律の中ではどう扱われているのだろう。
幸か不幸か普段あまり意識することがないのだが、結婚・離婚、相続、
または養子制度や生殖医療による子の誕生などについて思いを馳せる時、
はっきりした定義を知らないために、たちまちわからないことだらけになってしまう。
この日、鈴木さんからは、現代の家族の在り方と、
戦後まもなく制定された家族に関する法律に大きなずれがあり、
現状に即していないことと、今後どのような議論と法整備が望まれるか、
具体例を交えながらお話いただたいた。
非常に複雑な内容もあり、また多様な価値観との齟齬のお話であったため、
人によって学び取ったことは様々だったと思う。
すべてを紹介することは無理なので、ポイントを絞って紹介したい。
民法に定められたところにそぐわず、不利益が生まれるケースの多くは、
「親」と「子」の関係の多様化による。
現行の法律、また日本社会の一般的な通念として、一組の男性と女性が婚姻届けを出すと、
法律上の夫婦と認められ、その二人の間に生まれた「子」は、二人が「親」であり、この三人は「家族」である。
この場合の「子」を「嫡出子」と呼ぶ。
両親がそのつもりならばこれでまったく問題ない。
もしも、女性が婚姻関係にない別の男性の子を産んでいたとしても、
女性が隠していれば、もしくは婚姻関係にある男性と合意の上で、
夫婦の「嫡出子」として届け出た場合でも、この家族は法律的に認められた家族となる。
これは、生まれてきた「子」の親が誰なのか、一刻も早く法的に認めようとするための
「嫡出推定」と呼ばれる規定があるためで、「子」の親は出産した女性と法律上の夫である男性であると推定される。
「嫡出推定」では、妻が婚姻中に妊娠した子は夫の子であり(民法772条1項)、
婚姻成立の日から200日後、もしくは離婚など婚姻の解消の日から300日以内に生まれた子は
婚姻中に妊娠したものと推定する(民法772条2項)。
「子」の養育責任者が定まることは、合理的かつ人道的な一面を持つ。
しかし、ドメスティックバイオレンスなどにより婚姻関係は破綻しているが離婚が困難な場合に、
別の男性との間に産まれた「子」は、法律上の夫が父親として「推定」されてしまうという弊害も生む。
さらに深刻なのは、法律上の夫が父親にならないように、
出生届を出さずにいると、「子」が「無戸籍」になることだ。
無戸籍であることの問題点は、身分を証明するものがなにもない(国籍も親族関係もわからない)上、
公的扶助を受けたり就学したりといった権利が奪われる。
これは人権侵害に他ならない。
親にも事情があったとはいえ、子どもにはなんら関係がなく、
親の選択によって人権が脅かされることは双方にとって大きな傷になるだろう。
実際にあった事例で、性同一性障害により女性から男性に性別変更したトランス男性と女性が結婚し、
第三者の男性の精子提供を受けて「子」を出産した。
この「子」の親は上記の例に照らして「嫡出推定」を行えば、トランス男性が父親と認められる。
しかし、出生届を提出した役所では、男性にはもともと生殖能力がないのだから、
その男性の嫡出子にすることはできない、と判断したそうだ。
家裁・高裁と、男性は父親と推定されないとの判決だったが、最高裁において、
ようやくひっくり返すことができた。
ここには二つの問題が含まれている。
嫡出推定が法律上の婚姻関係だけに注目しており、事実や本人たちの意思にはなんの配慮もないこと、
そして、夫が元女性であったという目に見える原因があったために出生届を受理してもらえないのは、
性同一性障害に対する差別に他ならないことだ。
もともとは子どもの権利を守るための「嫡出推定」だったのだろうが、
生殖医療の技術が発展している現在、養子縁組以外にも遺伝的なつながりのない親子関係は
現にあるのだから、「親」と「子」の関係や家族をどうとらえるか、議論の時に来ている。
また、同性婚を認めるか否かも、当然「子」をどう取り扱うのかという議論も含む。
ただ、同性婚については語るべきことが多すぎて、ここには書ききれないので、
改めてまなびカフェなどの場で多くの人と意見交換をしたい。
さて、もう一つは夫婦別姓について。
結婚時に苗字(以後、氏)を変えた経験のある自分としては、
選択的夫婦別姓は認められるべきと考える。
自分は氏を変更することが嫌ではなかったが、良くもなかった。
銀行名義、カード名義の変更はもちろん、結婚前からの友人に名乗る際の違和感など、
なんとなく変更した方の人(多くの場合は女性)が損しているような感じがあった。
平成26年、「夫婦が婚姻の際に夫又は妻の氏を称すると定める民法750条の規定の
憲法13条、14条、24条に違反しており、この規定を改廃する立法措置をとらないのは
違法であると」として訴訟が起こされた。
平成27年12月に最高裁で憲法違反には当たらないと結審された。
判決理由のひとつは、夫婦の氏を同じにすることに合理性があるとの主旨。
「家族が社会の自然かつ基礎的な集団単位であるから、
個人の属する集団を想起させるために一つの氏に定めることは合理性がある」
「夫婦の「子」が夫婦の共同親権に服する嫡出子であることを示すために
同一の氏を名乗ることに意義がある」
「夫婦同氏制自体には男女間の形式的な不平等はなく、
いずれの氏を名乗るかは協議による自由な選択に委ねられる」
(※読みやすいように原文を変えています。)
などなど、いずれも民法制定時の家族観を如実に反映しているだけで、
夫婦別姓を認められない理由はどこにもないように見える。
3つ目の理由に至っては、自由な選択があったと感じている「女性」が
一体どれくらいいることだろうかと疑問だ。
重ねて言うが、私は夫婦同姓に反対しているわけではない。
現在の社会事情から、結局同姓を選ぶ夫婦が多いだろうことも予想される。
しかし、それはそう望んでいるから生じる結果なのではなく、
事実婚をするほかにそれ以外の選択肢がなかったという消極的な結果であることを忘れてほしくはない。
このトピックもここでは語りつくせぬ議論を多分に含んでおり、引き続き考え続けていきたいと思う。
鈴木さんの行きついた現状での課題は、
「婚姻関係を「法律上一定の権利・義務・責任を相互に負うパートナー関係」
として再構成するべきで、
「法律上の権利・義務・責任」の内容をもう一度精査することのほうが重要なのではないか」ということ。
遺伝的なつながりや、性別や氏がどうだ、ということよりもなによりも「家族になる」という
決意表明している人々が家族になれるように、そして、法的な庇護を受けられるような法整備と社会づくりを急がなければならない。
文・まなびカフェブロガー Nさん
◆各ブロガーさんのプロフィールはこちら
http://raipinews.seesaa.net/article/455139195.html
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◆らいとぴあ21「まなびカフェ」とは?
世の中のいろいろや最近ちょっと気になることを、少人数制でアットホームにまなび、考える「まなびカフェ」。各回の素敵なゲストの話を聞いて、みんなでわいわい意見をかわすといつも見ている世界が少し違って見えるかもしれません。普段は逢えないいろんな人、いろんな世界をのぞくことで、インターネットやテレビ、新聞などでは味わえない生きた”まなび”を楽しむ場です。スケジュールや各回詳細はまなびカフェイベントページ(Facebook)や、らいとぴあ21のブログに掲載のチラシPDFデータをご覧ください。
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